診療のご案内

女性外来

非配偶者間人工授精(AID)

非配偶者間人工授精(Artificial Insemination with Donor's Semen, AID)は、提供された第三者の精液を用いて妊娠する治療法です。
適応(どんな場合に行うか)、方法、提供精子(どのような精子を用いるか)、治療開始までの手続き、子供の戸籍、成功率、費用、問題点などを説明します。不明な点は、いつでもお尋ねください。

1. 適応(対象)

AIDは、これ以外の医療行為によっては妊娠の可能性がない場合に適応(対象)となります。したがって、原則として無精子症のみが適応となります。
ただ次の場合は、精液中に精子が認められても例外的にAIDが適応となります。ひとつは、精子が極めて少ない場合や、運動精子がほとんどいない場合などで男性側が原因であることがはっきりしていて、これまでに何度も顕微授精・精巣内精子を用いた顕微授精(TESE-ICSI)を試みても妊娠せず、AID以外では妊娠する可能性が事実上ないと判断される場合です。もうひとつは、例えば、ご主人が重篤な感染症にかかっているなどで、AID以外の方法で妊娠した場合に母体や児に重大な危険が及ぶと判断される場合です。

2. 方法

AID治療では、提供された精液を、最も授精しやすいタイミング(排卵日)で女性の子宮内に注入(授精)します。

(1) 授精する日の診断
排卵日の1~2日前に超音波などで排卵日を推定し、人工授精の日を予定します。
(2) 人工授精の実際
予定した日にまず医師と面談をして、体調などに異常がないことを確認します。授精は個々に区切られたブースで行い、お名前を再確認してから授精を行います。
授精は通常の婦人科診察と同様に腟鏡を用い、医師が子宮の入口からゆっくりと子宮頸管・腟にカテーテルを挿入し、洗浄精子を注入します。頸管を通過するときにわずかに痛みがあります。受精後15分ほど休憩して帰宅します。
抗生物質を施行後より服用していただきます。これは、腟内などから少量の細菌が子宮内に入る可能性があるために、感染を予防するためです。この抗生剤は、妊娠しても胎児への影響はありません。これ以外に、妊娠成立を助けるための薬を注射したり、内服したりすることがあります。
(3) 人工授精後の注意
帰宅当日は激しい運動を避け、また入浴は浴槽の中に入ることは避けてください(かけ湯、シャワーはかまいません)。翌日からは入浴・性生活も含め、通常と同様で構いません。
カテーテルが頸管を通過するときに頸管の粘膜がこすれることがあるため、授精後1~2日は軽い出血があることがありますが、月経の一番多いときより量が多くなければ、普通は様子をみて大丈夫です。
しかし比較的多量の出血、あるいは授精後1日以上たっても下腹部の重圧感や痛みがある場合は、受診してください。

3. 提供精子について

(1) 提供者
精子の提供者の条件は、精液所見が正常で、心身とも健康と認められる30歳以下の方で、さらに本人の知る限り2親等以内の家族と自分自身に遺伝性疾患がないことです。
(2) 感染症のチェックと精子の凍結保存の必要性
提供者は定期的に肝炎、AIDSを含む性感染症等に感染していないことを血液検査で確認しています。
しかし、肝炎・AIDSを含む感染症は、感染してから3か月程度は、血液中や精液中に感染力のあるウイルスがあっても、血液検査で陰性の結果が出ることがあります(偽陰性、window期間)。そのため、提供された精子を必ず一度凍結し、180日以上保存したあとで、再び提供者の血液検査を行い、陰性で感染症がないと確認してから、凍結精子を解凍して授精に用いています。
(3) 血液型
人工授精に用いる精子の提供者の血液型は、ABO式血液型は原則としてご主人と同じ血液型に合わせています。しかし、それ以外のRh式などの血液型や、身体的特徴などは選ぶことができません。
(4) 匿名性
精子提供は匿名で行っています。提供を受けた夫婦や生まれてきた子供は提供者の事を知ることができませんし、逆に提供者も治療を受けたご家族のことを知ることはできません。
ただ、子供や治療を受けた夫婦が、将来、医学的な必要性から、提供者の遺伝情報を知りたいと申し出たときには、医師が適当と判断し、また提供者も同意すれば、個人を特定しない範囲で必要な情報だけを提供する場合があります。
また、匿名で行うこの治療では、1人の提供精子で何十人もの子供が生まれると、その子供同士の近親婚の危険性が高くなります。そこで、1人の提供者からの出生児は10名以内としています。

4. 治療開始までの手続き

(1) 女性側の不妊検査
AID治療は、女性側に明らかな不妊原因がないか、あるいは治療可能であることが前提条件となります。例えば卵管が両側閉塞していたりすれば、先にそちらの治療をしなければなりません。したがって、まず、女性側の一通りの検査をする必要があります。
(2) 同意書と戸籍の確認について
女性側の検査が終わってAID治療を始める前に、治療を希望する夫婦が同席のうえで、生まれた子供を夫婦の嫡出子と認めることを明記した同意書を作成します。また、AID治療は法的に結婚している夫婦にしか行っていませんので、同時に戸籍謄本を提出していただきます。
さらに治療中、夫婦の意思が変わらないことを再確認するため、毎回人工授精を施行する度に、所定の同意書をいただきます。

5. 子供の戸籍

治療が成功して生まれてくる子供は、お二人の子供として戸籍に入ります。戸籍からこの治療で生まれたとわかることはありません。

6. 成功率

3.で述べたように凍結精子を用いているなどの理由により、現在1回の授精あたりの妊娠率は3~4%で決して高くありません。また、最終的にこの治療で妊娠する夫婦の割合は30~40%と考えられます(当センターの成績)。

7. 費用

AIDは自費診療となり、健康保険の対象にはなりません。授精の当日は、薬代等も含め合計3万円の費用が必要です(料金は変更になる可能性があります。ご確認ください)。

8. 問題点

(1) 毎回の治療に伴う問題点
人工授精で、稀に感染、出血や疼痛などの合併症が起こります。感染は、主に腟内の細菌が子宮や卵管に注入されることで起こります。授精の日から通常1~2日してから、下腹部の重い感じや鈍い痛みが出て、次第に強くなります。同時に熱が出てきます。このような場合はすぐに病院へ連絡をしてください。出血は、主に子宮頸管をカテーテルが通るときにかすり傷ができるためで、通常2~3日で止まります。また出血がなくても、子宮頸管にカテーテルによる傷が一時的にできることがあり、腰や肛門の辺りの軽い痛みとして感じられることがありますが、通常、2週間程度でなくなります。
(2) 告知
AID治療の子供はもちろんお二人の子供ですが、父親とは遺伝的なつながりがありません。子供にこの事実を教えるかどうか(子供への告知)が問題になります。
現状では、この事実を告げずに育てていることが多いようです。しかし、子供にAIDの事実を告げないことに問題がないわけではありません。ひとつは、父親と血がつながっていないことを隠すために、家庭の中で「触れてはいけない問題」ができて、少し緊張感のある家庭になる場合があるといわれています。また、子供が偶然にその事実を知ってしまった場合には、たとえ告げられなかったことが自分のためであったとしても、今まで大事なことを親が黙っていたこと(嘘をついていた)、父親と自分は血がつながっていないこと、今まで自分が生きて来た、あるいは、これから生きていく土台が消滅したと感じる、などに苦しむ場合があるといわれています。
ではすべて告げたほうが良いかというと、これにも議論があります。例えば、子供は告知されても、後述しますように、現在は、遺伝的につながりのある提供者の情報を知ることは絶対にできませんので、かえって混乱することなどが考えられます。
しかし、告げた方が逆に「なんでも話せる。普通の親子になれる」という報告もあります。その場合は、告げるのは早ければ早いほど良い、というのが一般的な意見です。
人はみな成長し変わるものですから、今の考えと告知をする時の考えが同じとは限りません。社会もまた同様です。しかし、告知の是非をきちんと考えてから治療を始めることは、この方法で子供を作る際に最低限の条件だと考えます。
(3) 出自を知る権利
告知された場合でも、偶然知った場合でも「自分と遺伝的につながりのある提供者がどんな人かを知りたい」という気持ちを子供が持つことがあります。時にはこの気持ちが非常に強くなり、「どうしても会いたい」という子供もいます。
しかし、現在、精子提供は匿名を前提にしているため、どんなに子供が知りたくても、教えることはできません。子供が親のことを知る権利を「出自を知る権利」といいますが、現在、この権利は厳密には認められていないことになります。告知をするときにはこのことも考える必要があります。
(4) AID以外の方法について(代替手段)
告知や、出自を知る権利のことを考えると、この治療が本当に夫婦や子供のために一番いい治療なのか、ほかの方法はないのかを考えなければなりません。
AIDのほかに二つの選択肢が考えられます。ひとつは、新しい治療ができるまで待ち、自然にまかすことです。ただ、これでは時間がたって、お二人が子供を作ることができなくなる可能性があります。もうひとつは、養子をむかえることです。養子であれば、将来、実の親に会わせることもできますし、また母親とも血がつながってないので、夫婦が平等に子供や家庭について考えられるのかもしれません。

9. 学会等への報告と個人情報について

AIDを行うすべての施設は、日本産科婦人科学会に報告する義務があります。報告の内容は、症例数、妊娠例数などで、氏名などの個人情報が報告されることは絶対にありません。
また、当センターとして上記のデータを研究に使う場合がありますが、この場合にも、氏名などの個人情報が明らかになることは絶対にありません。

10. 日本および世界におけるAIDの情勢

日本のAIDは1948年に慶應義塾大学医学部で行われたのが始まりです。現在までにAIDによって1万人以上の方が生まれているといわれています。日本産科婦人科学会の報告では、22施設(2005年6月時点)で行われ、年間約1500組がAIDを受け、160名前後の子供が出生しています。
世界でも、先進国を中心に広く行われています。日本と同様に提供者を匿名で施行している国(州)は、スペイン、サウス・ウエストオーストラリア州(オーストラリア)、カナダです。提供者を特定できる情報の伝達を保障している国(州)は、スウェーデン、ビィクトリア州(オーストラリア)、スイス、ノルウェー、オランダ、ニュージーランド、イギリスです。スウェーデンでは匿名制をやめたことにより、著しく精子の提供者が減りましたが、比較的高年齢の人が、配偶者の了承のうえで提供する事例が増え、増加に転じているようです。

11. カウンセリング

以上のように、AIDを始める前に、いくつか整理しておくことがあります。その中には夫婦が別々に考えるべきこともあるでしょうし、誰かに相談した方が考えやすい場合もあるでしょう。そうした場合に、当センターでは、医師・看護師のほか、不妊カウンセリング学会の認定カウンセラーが対応します。診察時に医師や看護師に相談してください。
また、AID・里親に関連した団体に以下などがあります。

看護ネット「女性よろず健康相談」(不妊・性・妊娠出産などの助産師相談)
http://www.kango-net.jp/
男性不妊のページすまいる(親の会)(男性不妊・AIDに関する相談)
TEL. 0465-21-6651すまいる(親の会)事務局 清水
http://www.h4.dion.ne.jp/~d-funin/index.html
特定非営利活動法人 環の会(子供との縁組や子供に恵まれない夫婦の相談に応じる団体)
TEL. 03-3951-7270
http://wa-no-kai.jp/
絆の会(養子縁組家族の会)
http://www.geocities.jp/kizunanokai1987/
非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループDOG(DI Offspring Group)
メール : DOGoffice@hotmail.co.jp

<参考資料>

  • Male Infertility AIDを考えているあなたへ/ 発行 : DI研究会
    作成・問い合わせ : 清水きよみ(国際医療福祉大学/kiyomi.ns@iuhw.ac.jp TEL.0465-21-6651)
  • 非配偶者間人工授精(AID)について(外来資料)
    久慈直昭 慶應義塾大学医学部 産婦人科
ご予約・ご相談はこちら047-322-0151リプロダクションセンターまで
  • 女性外来担当医スケジュール
  • 男性外来担当医スケジュール
  • 東京歯科大学 市川総合病院
ページの先頭へ戻る
東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター/〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13/TEL.047-322-0151内線4300